大阪地方裁判所 昭和61年(行ウ)81号 判決 1988年3月07日
原告
藤瀬皇一郎
被告
堺労働基準監督署長麻田芳雄
右指定代理人
高木国博
同
川口秀憲
同
小林省三郎
同
速水澄男
同
南敏春
同
水落武
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が昭和五七年三月一五日付けで原告に対してなした労働者災害補償保険法による傷病補償年金を支給しない旨の処分を取り消す。
2 被告が昭和五八年五月一三日付けで原告に対してなした労働者災害補償保険法による療養補償給付を支給しない旨の処分を取り消す。
3 被告が昭和五八年一二月九日付けで原告に対してなした労働者災害補償保険法による障害補償給付の支給に関する処分を取り消す。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、昭和五五年六月一七日小山工業の従業員として大阪堺日立造船の現場で作業中に、右眼瞼に鉄屑が落下し、右鉄屑が右眼角膜深部に刺さり負傷した。そこで原告は、同日阪堺病院で手術を受け、翌六月一八日には福原眼科を受診し二回の手術を受け、更に天王寺病院に六か月入院した。そして、現在も警察病院、大阪市大医学部付属病院へ通院し、治療中である。
2 被告は、昭和五七年三月一五日付けで原告に対し、労働者災害補償保険法による傷病補償年金を支給しない旨の処分(以下「本件第一処分」という)を行い、原告は、これに対し同年三月二九日大阪労働者災害補償保険審査官に審査請求をしたが、昭和五八年六月八日付けで審査請求を棄却する旨の決定を受け、更に、同年七月三〇日労働保険審査会に対し再審査請求をしたが、昭和六一年八月二二日付けで再審査請求を棄却する旨の裁決を受けた。
3 原告は、昭和五八年五月一〇日付けで労働者災害補償保険法による療養補償給付の請求を行ったが、被告は、同年五月一三日付けで治癒を理由に療養補償給付を支給しない旨の処分(以下「本件第二処分」という)を行い、原告は、これに対し同年七月八日大阪労働者災害補償保険審査官に審査請求をしたが、昭和五九年六月二九日付けで審査請求を棄却する旨の決定を受け、更に、同年八月九日労働保険審査会に対し再審査請求をしたが、昭和六一年八月二二日付けで再審査請求を棄却する旨の裁決を受けた。
4 原告は、昭和五八年八月二四日労働者災害補償保険法による障害補償給付の請求を行ったが、被告は、同年一二月九日付けで障害等級第一二級の一二に応ずる障害補償給付を支給する旨の処分(以下「本件第三処分」という)を行い、原告は、これに対し大阪労働者災害補償保険審査官に審査請求をしたが、昭和五九年六月三〇日付けで審査請求を棄却する旨の決定を受け、更に、同年八月九日労働保険審査会に対し再審査請求をしたが、昭和六一年八月二二日付けで再審査請求を棄却する旨の裁決を受けた。
5 本件第一ないし第三処分は、すべて違法であるので、原告はその各取消を求める。
なお、原告の現在の症状は、いつも微熱がある(平均三七度位)、右眼がいつも痛く涙がでる、全身がいつもふらふらして杖をつかないと歩行できない、右耳の耳鳴りがいつもジンジンしている、右の鼻半分がいつもつまっている、右側の上下半分の歯がいつもジンジンしている、二キロメートル位歩行すると体温が三八度位になる、新聞の字が読めなくなった、晩寝ると寝つきが悪い等である。
二 請求原因に対する認否及び被告の主張
(認否)
請求原因1の事実は知らない。同2ないし4の事実は認める。同5前段の主張は争い、後段の事実は知らない。
(主張)
1 本件第一処分について
(一) 原告は、昭和五五年六月一七日に堺市築港新町一丁五の日立造船株式会社構内において掃除職(日雇労働者)として就労中、業務上の事由により負傷したものとして、療養補償給付及び休業補償給付の支給を受けていたが、右負傷に係る療養の開始後一年六か月を経過したので、被告は、昭和五七年二月一〇日原告から、労働者災害補償保険法(以下「法」という)施行規則(以下「規則」という)第一八条の二第二項による届書及びこれに添えて医師の診断書を提出させたうえで、原告の右負傷及びそれによる障害の程度が法第一二条の八第三項、規則第一八条第一項の別表第二に定める傷病等級(以下「傷病等級」という)のいずれにも該当しないものと認定し、本件第一処分をした。
(二) 原告は、前記の通り日立造船株式会社構内においてウインチによる残材及び廃棄物の巻き揚げ作業に従事中、ゴミパックから溢れ落ちた鉄屑によって右眼瞼に負傷した(以下「本件業務上の負傷」という)ので、昭和五五年六月一七日から同月二四日まで、阪堺病院において、傷病名「顔面打撲、右上眼瞼挫創、右眼内異物の疑」の下に実日数七日の診療を受け、右同日から昭和五七年二月五日まで、天王寺病院において、傷病名「頭部外傷Ⅰ型、右上眼瞼部打撲挫創」(外科)、「右角膜異物除去後(右)眼精疲労」(眼科)、「右神経性耳鳴」(耳鼻咽喉科)の下に診療を受けていたが、本件業務上の負傷による障害の程度は、傷病等級のいずれにも該当しない状態であった。よって、本件第一処分は適法である。
なお、原告は、請求原因5後段において種々の症状を主張するが、それらは、いずれも本件業務上の負傷とは因果関係がないか、または傷病等級のいずれにも該当しない状態である。
2 本件第二処分について
(一) 原告は、昭和五八年五月一〇日被告に対し、本件業務上の負傷に係る天王寺病院における診療について療養の費用の請求をしたので、被告は、本件第二処分をした。
(二) 法第一二条の八に基づく療養補償給付の対象となるのは、医学的に見て通常医療効果が期待できる場合に限られ、疾病が固定した状態にあって効果的な治療方法が期待できなくなったときは、たとえなお身体の障害が残存していても、右疾病は「治った」ものとして療養補償給付及び休業補償給付の支給は打ち切られ、右障害は、法所定の障害補償給付の支給の対象となるのであって、右のごとき症状に対してある治療方法を施し、その結果がたまたま良好であったとしても、右治療方法の効果が医学上一般的に承認されているものでない限り、療養補償給付の対象とはならないと解すべきである。
ところで、原告は、昭和五八年五月四日に天王寺病院の耳鼻科及び眼科、同月六日に同外科の各科において診療を受けているが、右の各科領域における原告の症状は、いずれも遅くとも同年三月三一日以前において既に固定し、もはや向後の治療による医療効果も期待できない状態にあり、しかも右各科の治療は、対症的療法に終始し、効果ある治療方法は殆ど行われていないのであるから、原告の本件業務上の負傷は、遅くとも右同日までには治癒したものというべきである。よって、本件第二処分は適法である。
3 本件第三処分について
(一) 原告は、昭和五八年八月二四日被告に対し、身体障害があるとして障害補償給付の請求をしたので、被告は、原告の身体障害につき、規則第一四条第一項の別表第一に定める障害等級(以下「障害等級」という)第一二級の一二「局部にがん固な神経症状を残すもの。」に該当するものと認定し、本件第三処分をした。
(二) 原告の歯牙の障害は、一歯に対して歯科補てつを加えたものに過ぎないから、いずれの障害等級にも該当しない。
原告の神経系統に関する多彩な愁訴は、一応「バレリュウ型の外傷性頭頸部症候群」と見られることから、原告の身体障害の内容及び程度は、せいぜい「局部にがん固な神経症状を残すもの」として障害等級第一二級の一二に該当するとしても、これを上回るものではない。
なお、原告は、請求原因5後段において種々の症状を主張するが、いずれも自覚的症状であるにとどまり、それらを裏付けるに足りる医学的、他覚的所見は極めて乏しく、本件業務上の負傷との因果関係も認められないものである。よって、本件第三処分も適法である。
第三証拠(略)
理由
一 請求原因2ないし4の事実は当事者間に争いがない。
二 請求原因1及び5について判断する。
1 (証拠略)を総合すると、次の事実が認められ、他に右認定を左右する証拠はない。
(一) 原告は、昭和五五年六月一七日午後三時三〇分ころ大阪府堺市の日立造船株式会社大阪工場において、小山工業株式会社の掃除職としてウインチを使用した残材及びゴミの巻き揚げ作業に従事中、ゴミパックからこぼれ落ちたゴミが原告の右眼瞼に当たり、業務上負傷し(以下「本件負傷」という)、同日から同年同月二四日まで阪堺病院において、「顔面打撲、右上眼瞼挫創、右眼内異物の疑」の傷病名にて治療を受け、更に同日から天王寺病院に転医し、同病院において同年九月六日から昭和五六年四月一日までの間、「頭部外傷Ⅰ型、右上眼瞼部打撲挫創」の傷病名にて入院治療を受けた。
(二) 原告は、昭和五七年二月一〇日被告に対し、傷病の状態に関する届を提出したが、右届に添付された天王寺病院外科の植松医師の診断書には、原告の主訴の内容と他覚所見が一致しがたく今後については検討を要する旨の記載があったため、被告は、同年二月二三日付けで植松医師に対し、原告の検査の所見、治癒(症状固定)の見込み及び休業を必要と認める医学的所見について照会した。これに対し、植松医師は、検査の所見について異常を認めず、原告の主訴の内容は、「体全体の骨の痛みが来た、寒気も来た」、「フラフラしている、睡眠がとれていない、骨が悪い、両肩から後ろにかけて痛さむい」、「しんどい、朝目がさめても四、五時間だめだ、頭がズキーンとする、フラフラする、骨が寒くていたい、このようなことは月に一ないし二週間ある」、「頭が割れそうな感じがする、眼が痛む、涙がじわーと出てくる」、「何かしらズンズンと体全体がなる、目も痛む、調子は良くならない、顔半分がしびれる、フラフラする、晩は眠れない」等であるが、これらの訴えと頭部外傷Ⅰ型、右上眼瞼部打撲挫創の傷病名は一致しがたく、治癒の時期の判断及び休業を必要とする医学所見の決定にも困難を来している旨の回答をした。この後被告は、本件第一処分を行った。
(三) 被告は、昭和五七年三月一一日天王寺病院耳鼻科及び眼科の医師に対し、原告の初診時の症状、診療の経過、検査の所見、現在の療養内容、治癒(症状固定)の見込み及び休業を必要と認めるか否かの医学的所見を照会した。これに対し、同病院耳鼻科の東瀬医師は、原告の傷病名を右神経性耳鳴としたうえで、他覚的所見に乏しく、本件負傷による自律神経系に基づく耳鳴と考えるが、原告の供述が多彩であり説明できない部分も多く、心因性の要素も否定できない、休業の必要はない旨の回答をした。また、同病院眼科の宮浦医師は、原告の傷病名を角膜異物除去後(右)眼精疲労としたうえで、右眼瞼の瘢痕を除き、前眼部、中間透光体、眼底等に異常は認められず、視野及び眼圧とも正常であり、眼痛及び歯痛の自覚症状に対する対症療法の意味で頓服と点眼薬を続けている、眼瞼の外傷は固定しており自覚症状もほぼ変わりがないと思える、眼科的に休業を要する他覚的所見は認められない旨の回答をした。
(四) 被告は、昭和五七年四月二三日大阪労災病院の大石医師及び伊藤耳鼻咽喉科部長に対し、原告の愁訴、検査所見、今後の治療効果の有無と見込み期間及び残存障害の程度について、診断のうえ意見書の提出を求めたが、大石医師は、同年七月一六日付けで、検診時の原告の主訴は、右眼が痛い、全身の骨が痛い、耳鳴りがする、右側歯(半分)が痛む、鼻がつまる、歩行時ふらつく、右下肢がつっぱり歩きにくいというものであるが、右のごとき多彩な不定愁訴及び大后頭神経、大耳介神経、三叉神経第一枝に圧痛点を認め左側が右側よりやや著明であること(大后頭三叉神経症候群)以外には殆ど特別な他覚所見が認められないこと等を勘案すると、現症はバレリュー型の外傷性頭頸部症候群と判断され、本件負傷から二年余りを経過してその症状が慢性化した現在、右診断名とを併せ考えて、可及的速やかに症状固定とすべきである、残存障害の程度は第一二級の一二が妥当である旨の意見書を提出した。また、伊藤耳鼻咽喉科部長は、同年七月二四日付けで、原告の主訴は、<1>夜の耳鳴り、<2>ふらついて杖をついて歩く、<3>右鼻がつまる、<4>右上顎、下顎の歯がしびれているというものであるが、<1>は夜間の静かなときが主で聴力も概ね正常である、<2>は平衡機能検査によると異常がない、<3>は鼻中隔が右に弯曲しているためで本件負傷とは関係ない、<4>は上顎に骨折等の他覚所見は見当たらなかったとして、耳鼻咽喉科領域においては他覚的所見に乏しく、障害等級に該当しないとの意見書を提出した。
(五) 原告は、昭和五七年七月三日から大阪市立大学医学部付属病院神経精神科を受診していたが、被告は、昭和五七年一一月二五日付けで同科の大野医師に対し、原告の初診時の症状、診療の経過、検査の所見、現在の療養内容及び今后の治療効果について、治癒(症状固定)の見込み及び休業を必要と認める医学的所見等を照会した。これに対し大野医師は、昭和五八年一月一四日付けで、原告は、頭のフラフラ、耳鳴り、目がチカチカする、右の歯がジンジンする、一週間に一回骨が痛寒くなる、時々不眠があるとの心気的訴えで来院したが、薬物療法及び精神療法を行うもまったく症状は変化せず、心気的症状は固定していると考えられる、休業を必要と認める医学的所見は特にないと回答した。
(六) 天王寺病院外科の植松医師は、昭和五八年三月一八日付けで被告の照会に対し、昭和五五年六月二四日以降注射・内服薬療法を行ってきているが、原告の自覚症状には変化が見られず、諸検査においても異常所見は見られない、傷病名と原告の自覚症状とは結びつかないと思われるので今後の治療は必要とは考えられない旨の回答をし、また、同病院耳鼻咽喉科の東瀬医師は、同日付けで、右耳鳴りは今も訴えているが多分に神経症的なものであると診断し、同病院眼科の宮浦医師は、同月三月三一日付けで、現在に至るまで自覚症状改善の目的で対症的に投薬、点眼薬を処方し続けているが、状態としては固定している旨の診断をした。そこで、被告は、原告の外科、眼科、耳鼻科に対する症状はいずれも昭和五八年三月三一日症状固定により治癒したものと認定して、本件第二処分を行った。
(七) 原告は、昭和五八年八月二四日障害補償給付の請求を行ったが、右請求書に添付の天王寺病院歯科の稲田医師の診断書には、障害の状態として、一歯を抜歯したので欠損部を補てつした旨記載されていた。
(八) 被告は、昭和五八年九月八日付けで大阪赤十字病院に対し、原告の頭部外傷における現存障害の程度についての検診及び障害等級に関する意見書の提出を求めたが、同病院の太田医師は、同年一〇月三〇日付けで、意見書は精神科関係のものに絞るとしたうえで、原告の訴えは、微熱、全身の骨がだる寒い、耳鳴り、右眼がチクチクする、歯の上下がジリジリする等であるが、神経学的に精査したところ、昭和五七年七月一六日付けの大阪労災病院大石医師の意見と完全に一致する、障害等級は一四級が準用されると考える旨の意見書を提出した。そこで、被告は、本件第三処分を行った。
2 本件第一処分について
労働者災害補償保険法による傷病補償年金が被災労働者に支給されるためには、当該労働者の業務上の負傷あるいは疾病による障害の程度が法第一二条の八第三項、規則第一八条第一項の別表第二に定める傷病等級に該当することが必要であるところ、前示認定事実によれば、療養の開始後一年八か月を経過した後の昭和五七年二月下旬ないし三月ころの原告の傷病名は、<1>頭部外傷Ⅰ型、右上眼瞼部打撲挫創、<2>右神経性耳鳴、<3>角膜異物除去後(右)眼精疲労であって、<1>については、原告の主訴にもかかわらず検査の所見に異常がなく、主訴と傷病名が一致し難い、<2>については、他覚的所見に乏しく、心因性の要素も否定できない、<3>については、右眼瞼の瘢痕以外に異常が認められないというのであるから、右のごとき原告の傷病名、主訴、検査の所見等を総合すると、原告の訴える症状は傷病等級に該当しないことが明らかである。
なお、原告は、請求原因5後段において現在の症状を種々主張しているが、眼痛、全身のフラフラ感、右耳の耳鳴り、歯痛、寝つきの悪さの点は、右時期から訴えていたもの、その余の微熱、鼻つまり、発熱、新聞の字が読めなくなった点は、右時期後の訴えではあるが、前示の検討から、いずれも傷病等級に該当しないことが明らかである。
よって、本件第一処分は違法とはいえず、他に右違法性を認めるに足りる証拠はない。
3 本件第二処分について
法第一二条の八第一項一号、第一三条に基づく療養補償給付は、業務上の傷病が治癒したとき、すなわち、傷病に対する治療効果が期待できなくなり、かつ、症状が固定した状態になったときまで支給されるものと解すべきであるところ、前示認定事実によれば、大阪労災病院の大石医師は、昭和五七年七月一六日付けで、原告の現症はバレリュー型の外傷性頭頸部症候群と判断され、本件負傷から二年余りを経過してその症状が慢性化した現在、可及的速やかに症状固定とすべきである旨の意見書を提出し、大阪市立大学医学部付属病院神経精神科の大野医師は、昭和五八年一月一四日付けで、原告の心気的な訴えは薬物療法及び精神療法によってもまったく変化せず、心気的症状は固定している旨の意見書を提出し、天王寺病院外科の植松医師は、同年三月一八日付けで、原告に対し注射・内服薬療法を行ってきているが、原告の自覚症状には変化が見られず、諸検査においても異常所見が見られない、傷病名と原告の自覚症状とは結びつかないと思われるので今後の治療は必要とは考えられない旨、同病院耳鼻科の東瀬医師は、同日付けで原告の右耳鳴は多分に神経症的なものである旨、同病院眼科の宮浦医師は、同年三月三一日付けで、現在に至るまで自覚症状改善の目的で対症的に投薬、点眼薬を処分し続けているが、状態としては固定している旨それぞれ診断しているから、以上の事情を総合すると、本件負傷は、遅くとも同年三月三一日までに症状固定により治癒したものと認めるのが相当である。原告は、請求原因5後段において種々の症状を主張しているが、これをもってしても右判断を覆すに足りない。
よって、本件第二処分は違法とはいえず、他に右違法性を認めるに足りる証拠はない。
4 本件第三処分について
前示のとおり、原告の本件負傷は、遅くとも昭和五八年三月三一日までに症状固定により治癒したものと認められるので、右以降の原告の訴える症状が法第一二条の八第一項三号、第一五条、規則第一四条第一項の別表第一に定める障害等級に該当するかどうかについて検討するに、前示認定事実によれば、大阪労災病院の大石医師は、昭和五七年七月一六日付けで、原告の主訴は、右眼が痛い、全身の骨が痛い、耳鳴りがする、右側歯(半分)が痛む、鼻がつまる、歩行時ふらつく、右下肢がつっぱり歩きにくいという多彩な不定愁訴であるが、大后頭三叉神症候群以外には殆ど特別な他覚的所見が認められないこと等を勘案すると、原告の現症はバレリュー型の外傷性頭頸部症候群と判断され、残存障害の程度は第一二級の一二が妥当である旨、大阪赤十字病院の太田医師は、昭和五八年一〇月三〇日付けで、精神科関係のものに絞るとしたうえで、原告の訴えは、微熱、全身の骨がだる寒い、耳鳴り、右眼がチクチクする、歯の上下がジリジリする等であるが、神経学的に精査すると右大石医師の意見と完全に一致するが、障害等級は一四級である旨、大阪労災病院の伊藤耳鼻咽喉科部長は、昭和五七年七月二四日付けで、原告の主訴は、<1>夜の耳鳴り、<2>ふらついて杖をついて歩く、<3>右鼻がつまる、<4>右上顎、下顎の歯がしびれているというものであるが、<1>は夜間の静かなときが主で聴力も概ね正常である、<2>は平衡機能検査によると異常がない、<3>は鼻中隔が右に弯曲しているためで本件負傷とは関係ない、<4>は上顎に骨折等の他覚所見は見当たらなかったとして、耳鼻咽喉科領域においては他覚的所見に乏しく、障害等級に該当しない旨、天王寺病院歯科の稲田医師は、原告の障害の状態として、一歯を抜歯したので欠損部を補てつした旨、それぞれ意見ないし診断をしているから、以上の事情を総合すると、原告の障害等級を規則第一四条第一項別表第一の第一二級の一二と認定した被告の処分は相当というべきである。
なお、原告は、請求原因5後段において種々の症状を主張しているが、右の症状は、いずれも前示の意見ないし診断においても検討がなされているものというべきであるから、右障害等級の認定に影響を及ぼすべきものではない。
よって、本件第三処分も違法とはいえず、他に右違法性を認めるに足りる証拠はない。
三 以上の次第で、本件第一ないし第三処分はいずれも違法とはいえず、原告の本件各請求は理由がないから、これらを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中田耕三 裁判官 土屋哲夫 裁判官 下野恭裕)